エスペラントの歌祭
大本歌祭は、日本の中世以降途絶えていた神事を1935年に大本教祖・出口王仁三郎師(エスペラント普及会創設者)が復興しました。「弓太鼓」と「八雲琴」の音にのせ、「ひなぶり調」と呼ばれる独特の調子で和歌を朗詠して神々に献じ、神人和楽と世界平和を祈る神事です。
2007年8月に京都府綾部市で行われた交流行事「Bonvenon al Oomoto en 2007 !」の中で大本エスペラント歌祭が長生殿能舞台で行われました。これはエスペラントのみで行われた初めての歌祭でした。2010年10月にはブラジルの首都でブラジリア大本エスペラント歌祭が、そして2023年EPA創立100周年記念行事の中でも大本エスペラント歌祭が行われました。
2025年秋に綾部で開催される『綾の聖地エルサレム大本歌祭』はエスペラントを中心に日本語をはじめ各国々の言葉で献詠歌が朗詠されます。
全ての言語を統べるという意味で出口王仁三郎聖師はエスペラントに「英西米蘭統」と漢字をふり、「国と人の差別も立てず天の下に開き行かなん英西米蘭統語」と短歌を詠みました。
“Unu Dio”、”Unu Mondo”、”Unu Interlingvo”を活動の柱に掲げる人類愛善会が創立100周年となる2025年に綾の聖地で開催される世界を和合へと導く神事「歌祭」に、英西米蘭統語を中心にともにお仕えできますよう、まずはエスペラント朗詠短歌の作歌に挑戦してまいりましょう。
エスペラント朗詠短歌の作り方
監修:前田茂樹
Nova Vojo 誌 2021年7月号より
エスペラント朗詠短歌の作り方につい て、解説します。まずは、日本語で短歌を作り、エスペラントに訳 していきましょう(短歌にしたいテーマを何となくイメージし、関 連の単語を書き出し、その後、朗詠短歌として整えていくという方 法もあります)。 その上で、エス語朗詠短歌を作るには、下の3つの約束事を守りましょう。
1: 5、7、5、7、7の5段、計 31 音節で作る。
2: 各音節の強弱は、強・弱・強・弱 ... の繰り返しで、単語のアク セントは、必ず強のところに来なければならない(単語のアクセン トのところ以外の音節は、強、弱どちらに来ても構わない)。
3: 冠詞 la の a、名詞の語尾 o は、アポストローフォを付けて省略 することができる(ただし、la の省略は、直前の単語が、母音で終 わる前置詞の場合に限る)。
下の作詞例を元に、解説していきます。なお、この歌は八雲神歌 「八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を」をエス語朗詠短歌向けに、前田茂樹講師が翻訳したものです。
Ha, senĉese nub’
leviĝas ĉe Izumo
kiel la palac’
ja multoblebarila,
tiun dikbarilon mi.
まず、1:「5、7、5、7、7の5段、計 31 音節で作る」ですが、下を見てください。
〈1段目〉 Ha,/sen/ĉe/se/nub’ 5音節
〈2段目〉 le/vi/ĝas/ĉe/I/zu/mo 7音節
〈3段目〉 ki/el/la/pa/lac’ 5音節
〈4段目〉 ja/mul/to/ble/ba/ri/la, 7音節
〈5段目〉 ti/un/dik/ba/ri/lon/mi. 7音節
1段目の Ha, senĉese nub’ の音節は、Ha,/sen/ĉe/se/nub’ の5 つです。音節とは、母音を中心に、その母音単独、あるいは、その前後に1個または複数の子音を伴って構成する音声(群)で、音声 の聞こえの一種のまとまりです。音節の数は、母音の数と同じになりますので、1段目の母音の数は5、2段目は7、3段目は5、4 段目は7、5段目は7にならなければなりません。 この5、7、5、7、7よりも音節の数が多くなると、いわゆる字余りの歌に、少なくなると、字足らずの歌になってしまいます。 字余り、字足らずの歌にならないようにしてください。また、5段に文章が区切られるわけですが、各段ごとで意味のまとまりを保つように心がけましょう。
例えば作詞例の3段目の kiel la palac' の部分が、
〈3段目〉....kiel
〈4段目〉la palac'...
のように段をまたぐのは、良くありません。単に 31 音節で単語を並べさえすれば良いというわけではありませんので、注意が必要です。
次に、2:の「各音節の強弱は、強・弱・強・弱 ... の繰り返しで、 単語のアクセントは、必ず強のところに来なければならない(単語のアクセントのところ以外の音節は、強、弱どちらに来ても構わない)」について解説します。
〈1段目〉 ● ○ ● ○ ● ●...強
〈2段目〉 ○●○●○●○ ○...弱
〈3段目〉 ● ○ ● ○ ●
〈4段目〉 ○ ● ○ ● ○ ● ○
〈5段目〉 ● ○ ● ○ ● ○ ●
エス語朗詠短歌は 31 音節で作りますが、各音節には「強」「弱」が、上のように割り振られています。
1段目の最初の音節は「強」、次の 音節は「弱」。以下、「強」「弱」が繰り返しで割り当てられています。 エスペラントの(2音節以上の)単語には、後ろから二つ目の母音に必ずアクセントがあります。例えば、作詞例の1段目に senĉese という単語があります。この単語は、ĉの後の eにアクセントがあり、このアクセントのある音節は、「強」のところに来ています(下参照)。
このようにアクセントのある音節は、必ず、「強」のところに来なければなりません。アクセントがない1音節の単語や、2音節以上の単語でもアクセントのある音節以外の音節は、「強」「弱」どちらに来ても構いません。
作詞例の歌を音節ごとに分解し、実際に「強」「弱」が合っているか、確認してみましょう。
●○●○● 〈1段目〉
Ha, sen ĉ・e se nub’
○●○●○●○ 〈2段目〉
le v・i ĝas ĉe I zu mo
●○●○● 〈3段目〉
k・i el la pa la・c’
○●○●○●○ 〈4段目〉
ja mul to ble ba r・i la,
●○●○●○● 〈5段目〉
t・i un dik ba r・i lon mi.
この歌の中で、アクセントがある単語は、senĉese 以外では、 leviĝas, kiel, palac’ , multoblebarila, tiun, dikbarilon です (Izumo は日本語の固有名詞のため、アクセントは不問 ) 。いずれも単語の アクセントのある音節が「強」に来ています。アクセントのある音 節に・を付けていますので、左下で確認してみてください。 なお、palac' は palaco という単語の名詞語尾 o を省略し、アポストローフォを付けて palac' としていますが、アクセントの位置は、 c の前の a のままです。間違えないようにしましょう。
3:「冠詞 laの a、名詞の語尾 o は、アポストローフォを付けて省略することができる(ただし、la の省略は、直前の単語が、 母音で終わる前置詞の場合に限る)」については、作ったエス語朗詠短歌の音節が、31 音節よりも多くなってしまった場合など、音節を減らすのに有効です。作詞例では、前述の palac' のように名詞語尾 o を省略することで、3段目の音節の数を5つにしています。 ただし、la については、どんな場合でも a を省略することができるというわけではありません。
la の a の省略は、de l', pri l', pro l' のように先行する前置詞が母音で終わっている場合に限られます。というのも、l' の前後が子音だと、発音するのが非常に難しくなってしまいます。
また、l' avo, l' ano, l' amo など、la の後に母音で始まる単語が来ると、それぞれ lavo, lano, lamo といった別の単語と混同してしまうことになります。
エス語朗詠短歌を作るのは、簡単ではありません。
この3つのルールを満たすために、単語を入れ替えてみたり、試行錯誤する時間がそれなりに必要になります。
あきらめずにコツコツと作ってみましょう。